少し野菜や家庭菜園から離れてしまうかもしれませんが、いま、非常に「物語」が強く作用する時代だとされています。
たとえば、この記事のような文字コンテンツは、簡単にコピーされてしまいます。
漫画や音楽なども簡単にコピーでき、複製されてしまうのが、今の世の中の厄介なところです。
しかし、誰にもコピーできないものがあります。
それが、その人の固有の体験や、物語性です。
ストーリーがあれば、一部のすごく共感してくれる人にアプローチすることができるので、それだけで暮らしていくことができるのです。
野菜もそれと同じく、物語をまとうことで、一部の人に強くコミットしてもらうことができるのではないでしょうか。
いまはインターネットを通じて、自分のストーリーを配信することができます。
たとえば、9割の人に嫌われても、1割の人に好かれれば、それだけでやっていけるのです。
インターネットで価値観の近い人達が繋がれる時代ですから、もはやリアル社会で表層的な友達や友人知人が多いことに意味はありません。
むしろ、嫌われていても良いですから、一部の人に強烈にささるコンテンツを配信することができれば、あとはそうした自分を好きでいてくれる人たちと繋がっていれば良いのですので、怖いものはないのです。
無理をして嫌いな人に触れる必要も無いでしょう。
たとえば、村が20人しか住人がいなければ、その20人に嫌われるということは、とてもつらいことでしたし、生きていけない状況でした。
しかし、今や村の外のインターネットの時代ですから、大海原に繰り出して、いくらでも人がいる状況です。
それなら、一部の大好きな人たちに向かって発信しましょう。
フェアトレードなども魅力的
野菜も、物語をまとうことができます。
代表的なのはフェアトレードですね。
自分で生産者を選ぶことができます。
誰がつくったのか、そしてどんな思いをもって、どんな背景で野菜ができたのか、そこに搾取はなく、生産することで貧困から脱出することができるのか。
そうしたフェアトレードの魅力があります。
自分がコミットしたいと思うストーリーを選択して、購入することができるのがフェアトレードの魅力です。
何もあたまでっかちになってしまうのではなく、実際に現地にいったり、手紙をかいたりもできます。
交流しても良いですし、身近な野菜として、繋がれることができるのです。
私たちの身近にあるフェアトレードの例としては、牛丼のすき家でフェアトレードのコーヒー豆などが販売されています。
しかし、すき家そのものが、ややブラック企業のイメージがあることは否めず、ほんとうにフェアトレードなのだろうかという疑問がわいてくるのは事実です。
しかしすき家の理念は「世界から飢餓をなくす」という創業理念でやっておられますので、そうしたストーリー性にコミットできるのであれば、それはそれで、素敵なことではないでしょうか。
野菜が物語をまとったら:ロンドンの例
野菜もストーリーをまとうことで、より愛着がわくようになります。
一時期、スーパーでは生産者の顔写真がついた野菜が人気でしたが、いまはほとんど見かけなくなってしまいました。
また、同じ人の顔写真が群馬と福岡と北海道産の野菜で使われるなど、すこし???なところもあったのは事実です。
野菜にストーリー性があるとはどういうことでしょうか。
たとえば、ロンドンの例を考えてみましょう。
ロンドンも東京と同じように、資源がないため都心部では野菜を育てることができません。
しかし、ロンドンの人口は増え続けています。
移民が多くやってくることが原因です。
移民といってもご飯を食べないわけにはいきませんから、野菜のニーズはとても高いのです。
また、ロンドン市街、イギリス全土からも、ロンドンに移住したいという人たちは多く存在し、人口過剰でロンドンの街を苦しめています。
都市は自然に人口が増えるという悩みを抱えているのはどこも同じではないでしょうか。
そこで、ゼロカーボンフード社が提供しているのが、地下室での野菜づくりです。
ロンドンの地下には、過去の戦争の際につくられた防空壕があるのです。
1940年頃、ロンドンでの第二次世界大戦のさなかに地下防空壕がつくられ、最大8000人を収容できる巨大なスペースとして、大きなキャパシティを誇っていたのです。
全長が400メートル以上あり、2本のトンネルがあります。
しかし、当然ながら現在は戦争などないので、使われていません。
そこで、農園として使ってみようという試みがなされているのです。
LEDを使えば、電気料金もごくわずかですみますし、エネルギーの効率も非常に良いのです。
さらに、温度は18度前後と、栽培に最適な温度が保たれているのです。
水分および養分も必要になりますが、水は限りなく少なくとも良いように、工夫されています。
このシステムを使って、『Growing Underground(地下で育てる)』というブランドとして売り出せば、都会の人の野菜不足にヒットするのではないでしょうか。
実際にGrowing Undergroundブランドはレストランなどにクレソンを出荷し、人気となっています。
クラウドファンディングとも相性抜群
そしてこうした物語の力は、クラウドファンディングとも相性が抜群なのです。
クラウドファンディングもまた、その人のバックグラウンドに共感し、投げ銭してリターンを得るものです。
リターンという自分の私的な動機が目的となりますが、それでも大多数の人が、オーナーの背景にある物語に共感して、お金を投げるのではないでしょうか。
このロンドンの地下野菜栽培も、現在使われていない空きスペースを利用して、人口過剰と二酸化炭素排出の増加に苦しむロンドンの住民に、新たな価値を提供することを目的とし、クラウドファンディングをスタートさせています。
準備をひたすらしてきましたから、共感してくれる人も多く、ブロッコリー、コリアンダー、バジル、ニラ、ルメックスといった少し大きめの野菜を栽培し、地下野菜としてレストランにデビューさせていく予定です。
とても未来を感じませんか。
1万平米以上の空間を使って、農園を本格稼働させていくのです。
水耕栽培を主として利用し、温度が一定であるという地下の利点をうまくつかって、栽培台を水でひたして、栽培します。
地下栽培の野菜は実際に☆2つの有名レストランシェフにも好評で、最初は懐疑的だった人たちも、徐々にその美味しさに目覚めて、これはロンドンの乏しい食生活を買えてくれるのではと期待しています。
非常に多くの期待があつまるこの地下野菜の物語。
あなたはどう思いますか。
東京でも同じ仕組みが?
実は東京でも、パソナグループが地下での野菜栽培に着手しています。
これによって、地下栽培の野菜は一気に地名度を高め、盛り上がっていくことでしょう。
まだまだアナログな世界である家庭菜園や野菜栽培の世界ですが、地下で完全コントロールの配下で育てるという新しい取り組みには、21世紀を感じさせるものがあります。
非常に興味深い取り組みですので、注目しておきましょう。
物語をまとった野菜が、市民にどう受け入れられていくか、要注目です。
こうしたストーリー性は、今後の時代を考える上で、非常に役立つものです。
食卓の語り合いにも最適で、この野菜にはこういう背景があって、と語れると、また一味違った食卓になるのではないでしょうか。
(文/渡邉ハム太郎)