ずいぶんと寒くなってきました。
この季節になると、野菜農家さんやスーパーには「野菜を洗ったら、水に色がついた!農薬が浮いているんじゃないの?」という問い合わせが寄せられるそうです。
今回は、その件について考察してみましょう。
トマトをベジシャワーで洗うと黄色い水が!
ベジシャワーという製品があります。
野菜を洗うための専用洗剤。
このベジシャワーという液体でトマトを洗うと、洗った水が黄色くなります。
インターネット上には、さまざまな検証動画やコンテンツがアップされ、実際にトマトから黄色い液体がでていることが確認されます。
これは公式の動画です。
「農薬や汚れを落とす」「プラスのイオンでベジシャワーのマイナスイオンを吸着して落とす」とはっきりいってしまっていますね。
これにはいくつかの問題点があります。
無農薬野菜と比較しなければ意味がないのでは?
まず実験では、“農薬まみれ“とおぼしきミニトマトを使っています。
しかし、パッケージは剥がされていますし、農薬が本当に生産過程で使われたものなのか、それとも減農薬なのかはわかりません。
それに加えて、実験をするのであれば、「無農薬野菜」と「通常の野菜」で比較しないことには、通常のトマトでも黄色い液体がでてくる可能性があります。
そこを実験しないことには、本当に農薬なのかがわかりません。
本当に農薬なの?
そもそも、トマトやブロッコリーといった野菜は、生成の過程で、みずから膜やワックスが表面に浮き出ることがあります。
これは冒頭でもみた通り、天然のワックスです。
水酸化カルシウムを溶かした水で、この天然のワックスと混ぜ合わせると、たしかに黄色く反応します。
ただし、トマトの場合は、リコピンがこれに反応している可能性は十分あります。
農薬かどうかはとても怪しく、数多くの検証動画があがっています。
「残留農薬が、液体をかけたら溶け出して、水が変色した」
というのは、ストーリーとしてはとても良くできています。
人間はストーリーに強く惹かれるものなので、それを否定すべきではありません。
しかし、ニセ科学というものがありますので、そうしたニセ科学にハマってしまわないためにも、ある程度の化学リテラシーが重要になります。
野菜の育て方.comは化学ブログではないので、化学の勉強は下記をご覧になるとわかりやすいです。
野菜と農薬
野菜の育て方.comで何度かお伝えしているように、市販されている野菜に、人体へ著しい悪影響があるほどの農薬は使われていません。
農薬はそこそこコストがかかるので、大量散布、継続散布は困難なのです。
そして、日本は世界でも有数の、食品にうるさい国です。
国民もうるさいですし、国のガイドラインも極めて厳しくなっています。
たとえば、牛乳で食中毒事件があったときは、大きな問題となって巨大企業ですら倒産しかかりましたし、冷凍食品工場に異物が混入されたときも、徹底した調査が行われました。
よって、まず常識的に考えて、日本で育成された日本産の野菜に、何か液体をかけたら農薬が浮き出たというのは、トリックのように思えてしまいます。
海外産の野菜ならありえるの?
日本の厳しい農薬ガイドラインで、まずトマトやブロッコリーを、ベジシャワーやホタテワックスで洗って農薬を落とすなんてことは、考えられません。
では、海外ならありえるのでしょうか。
もちろん、海外でもありえません。
野菜内の農薬が、液体と反応して・・・なんてことは、科学的にも化学的にも、起こりえないのです。
どうしたら科学リテラシーが高まる?
これはひとえに、科学リテラシーの欠如から起こるものだと考えられます。
多くの人が小学校、中学校、高校、大学と進学しますが、その過程で、理系は苦手だと思う人が多いのではないでしょうか。
しかし、こうした科学リテラシーを持つことはとても大切です。
なぜなら、真実を見抜く目を持つことは、自分自身の成長にもつながりますし、また大切な家族や自分自身を守ることができます。
非科学的な誘いに、応じなくなるのです。
たとえば、ベジシャワーやホタテワックスといった、怪しい製品を買うこともなくなりますし、自然派をこじらせすぎて、大切な自分たちの赤ちゃんのアトピーを放置したり、ワクチン接種を拒否したりということがなくなるのです。
それら非科学的なニセ科学は、ときに大切な人の命を奪いかねません。
がんの治療にしてもそうです。
最近は治る病気になりつつあるがんも、自然派治療を受けたり水素を吸入したりして、標準治療を拒否し、苦しんで亡くなる方もいるのです。
命を守れるのが、科学の力ではないでしょうか。
少なくとも、野菜だけの問題ではなさそうです。
ニセ科学にハマる背景
どうしても小さなお子さんを持つご家庭が、ニセ科学のターゲットになりがちです。
それは、赤ちゃんができると、どうしても自然のものを食べさせてあげたいという気持ちが働くからです。
オーガニックという言葉に弱くなり、同時に、免疫や自然治癒力と言った言葉にも、惹かれやすくなります。
それはとても理解できるものです。
問題は、騙すほうが悪いということです。
インスタグラムにも、母乳育児、無痛分娩の拒否、布おむつに布ナプキン、自然派育児のママたちが闊歩しています。
それらはすべて、悪意があるわけではなく、むしろ善意でやっているケースも多いのです。
また、お友達には口コミで、自分が良いと思っているものを広めたいもの。
それが、ニセ科学になってしまっているだけなのです。
子供を思う気持ち。
そして、いいものを仲のいい人に広めたいという気持ちが、ニセ科学の拡散を後押ししてしまっているのです。
安心して野菜を食べよう!
ベジシャワーは、実は、ソーシャルメディア上で、ベジシャワーをセールスした方が、トマト農家を否定し、大変な批判を浴びました。
それはあまり良いことではありません。
しかし、人を追い詰めても意味はないので、正しい科学を啓蒙していくことが大切なのではないでしょうか。
そして、野菜で農薬まみれのものなど、日本に流通している野菜では考えられないことです。
もしかしたら、海外では寡聞にして知らないので、そうした危険なものがある可能性はゼロとはいえません。
しかし、どこの外国でも、その国の人たちは自分たちが作った野菜を食べているわけですから、海外だからといって、農薬まみれとは限りません。
いたずらに、農家を貶めて風評被害を広めることは、決してやってはならないことです。
それと同時に、間違いを犯した人も、あまり責め立てていたら、次責められるのは自分です。
野菜は安心して食べましょう。
心配なら国産を食べましょう。
そして、たとえばベジシャワーとホタテワックスだけでなく、福島の野菜がよくないとか、いろいろな杞憂があります。
しかしそれらはすべて、特に問題ない、つまり考えすぎです。
インターネットのみすぎには注意しましょう。
学生や、専業主婦など、あまり世間ずれしていない方々は、とくにネットのみすぎで間違った知識を持ってしまうことがあります。
不安なら、農家さんと話してみると、信頼できることがわかるのではないでしょうか。
家庭菜園をするのにも、農家さんの知り合いがいたら、心強いですよね。
今回は、ちょっと趣向を変えて、ベジシャワーとホタテワックスなどの怪しい商品が売られている件について、お伝えしました。
水のにごりは問題ありませんので、安心して食べましょう。
(文/渡邉ハム太郎)