「野菜づくりは土づくりから」といわれるほど、土は野菜づくりの基本です。
種まき、苗の植えつけ、そのあとの手入れも大切ですが、重要なのはよい土をつくることです。
よい土ならば、土が野菜を育ててくれます。
野菜にとってよい土は、微生物がたくさんいて、水はけ、通気性、土の酸度、水持ちのよい土です。
最初はよい土でも、野菜を作り続けていると、だんだん土の中の有機物が減って、土がかたく締まってきます。
有機物の少ない土では、強い雨にたたかれたり、人に踏みつけられると、すぐに土がかたくなってしまいます。
こうなると、通気性や水はけが悪くなり、野菜の根が呼吸できなくなり、根が腐ってしまうこともあります。
こうした状態にならないように、野菜づくりが一段落した場所は、土づくりをしましょう。
よい土で野菜を育てると、病原菌や害虫に負けにくくもなります。
最近は野菜の栄養価が低く、味も薄いといわれますが、これは、化成肥料に頼り、堆肥などを用いた土づくりが行われていないからです。
有機物の多いよい土で野菜を育てることは、野菜を健康に育てるとともに、栄養価が高く、味の濃いおいしい野菜が収穫できるのです。
目次
野菜がよく育つよい土とは?
[よい土の条件]
- 水はけと通気性がよい
- 水もちと肥もちがよい
- 土の酸度が適正
- 適度な肥料分がある
- 病害虫が少ない
野菜が大きく育つには、根が健康に生育することが必要です。
根がしっかりと土中に伸びるには、ふかふかした土が最適です。
ふかふかした土とは、ひとつずつ粒になって、すき間のある土です。
ふかふかした土にするためには、土を団粒構造にすることです。
団粒構造の土は、土の中に適度なすき間があり、水はけや水もちがよく、通気性にも優れています。
こうした土であれば、根が伸びやすく、水や栄養をじゅうぶんに吸収することができます。
反対に、土壌の粒子が集合していない単粒構造の土は、空気や水が入り込みにくく、根が酸素不足を起こしやすくなります。
次に、野菜の好む土壌酸度(pH)に調整します。
野菜の多くは、pH6.0~6.5の弱酸性の土を好みます。
しかし、雨の多い日本の土壌では、石灰成分やミネラル分が流れやすく、土は酸性に傾きがちのため、土壌酸度を調整する必要があります。
土壌酸度の測定は、市販のpH測定キットが便利です。
土壌酸度の調整には、石灰質資材を施します。
それから、生き物がたくさんいる土であることです。
ミミズやトビムシなどの土壌動物や、さまざまな微生物が土の中にたくさん生息していることも重要です。
多様な微生物が存在することでバランスがとれて、特定の病原菌などが異常繁殖することがなくなります。
野菜が大きく育つためには、根がしっかりと伸び、水や栄養をじゅうぶんに吸収することが大切です。
このためには、水はけや水もちのよい団粒構造の土にすること、さらに、有機質肥料や堆肥など適度に施して土壌動物や微生物が生息しやすい環境をつくることが大切です。
黒い土=よい土?
黒い土はよい土だと思われてる方がいますが、じつはそうではありません。
黒い土は、黒ボク土という土です。
黒ボク土は、火山の噴火がもたらした火山灰に有機物が集積して黒い色をした土です。
ふかふかしていて、排水性や保水性に優れていますが、酸性が強く、リン酸を吸着する物質が含まれているため、リン酸が欠乏しやすく、野菜が育ちにくい土なのです。
よい土の構造(団粒構造)にする
土の微細な粒子が隙間なく詰まった土は単粒構造といって、固くて水はけが悪い土です。
土の粒子が腐植物などを接着剤として小さなミクロ団粒(直径約0.05mm)になり、それがさらにくっついて大きなマクロ団粒(直径約0.5mm)になると、水に溶けにくい丈夫な団粒構造になります。
マクロ団粒には、小さな隙間や大きな隙間が多く、小さな隙間には水が溜まり、大きな隙間は空気の通り道になります。
また、団粒構造はマイナスの電荷を帯びているので、アンモニア、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのプラスイオンを持った養分を吸着し、貯蔵します。
肥もちもよくなり、後から肥料を与えないでも、蓄えた養分を野菜に供給して育ててくれます。
野菜を数年作り続けると土がやせて単粒構造になっていきます。
土を団粒構造にするには、堆肥または稲わらなどの有機質肥料を施しつづけることが必要です。
根と微生物が団粒構造を作る
ミミズは益虫で、枯れた茎葉や根を土と一緒に食べて、腸で消化し、粘着物質をくっつけ、地表に団粒構造となった大きな糞を出します。
ミミズの多い土はいい土といえます。
細菌や糸状菌は、枯れた根や茎葉を分解して栄養源にしているだけでなく、根から養分をもらっています。
根は地上の茎葉から送られてくる養分のうち、半分を毛根から土の中に出して、細菌や糸状菌などの土壌微生物を養っています。
したがって、根の周りには団粒構造がたくさんできます。
耕しすぎると壊れてしまう団粒構造
土をよくしようとして耕すと、根と微生物が作った団粒構造や根穴構造を破壊してしまいます。
耕運機などで細かく耕した土は、一時的に隙間が空きますが、雨に当たるとすぐに固まってしまいます。
よい土は耕すだけでは実現しないので、堆肥などの有機物を施しつづけましょう。
畑の土を調べる
畑の土の性質を知ることが大切です。
土の状態が分からなければ、なにを改良すればよいかもわかりません。
畑の土が砂質なのか、粘土質なのか、それともほどよい土なのか、知っておくことが大切です。
それでは、ほどよい土なのか、チェックしてみましょう。
なお、雨の直後や、土が乾いているときは、正確な判断ができません。
土を握りしめ、水が出てこない程度の湿り気のときに行いましょう。
[ほどよい土]
土の粒子が小さな塊となっている。
土に穴をあけて水を注ぎ込むと、すぐに吸い込まれてなくなる。
土に棒を垂直に差して、楽に潜り込む深さが30㎝以上ある。
土を少量の水で湿らせて、細長くこねると、鉛筆ぐらいの太さにまとまる。
[ほどよい土でない]
砂質:棒にならず、固めることができない
壌質:何とか鉛筆ぐらいの太さにまとまる
粘質:マッチ棒ぐらいの太さになる
強粘質:こよりのように細くなる
砂質の土を改良するには
砂質の土は、水はけはよいものの、保水力と保肥力が低く、土がすぐに乾いてしまいます。
砂質の土を改良するには、保水性の高いピートモスやココピート、土の改良効果の高いバーク堆肥をすき込みます。
水もちと肥料もちがよくなります。
粘土質の土を改良するには
粘土質の土は、保水力と保肥力は優れているものの、排水性と通気性が悪く、乾くと土の表面が固まってしまいます。
粘土質の土壌を改良するには、堆肥や腐葉土のほか、空気を多く含んで軽いもみ殻やバーク堆肥、パーライトなどを加えてよく混合させます。
土の中にすきまができ、よい土になります。
栽培する場所の土壌が極端に粘土質であったり、耕し方が浅くて水はけが悪かったりする場合は、思い切って天地返しをしましょう。
天地返しは、栽培予定場所の土を深さ50~80cmまで掘り下げて、心土と呼ばれる病原菌の少なく、酸素があまり届かない深層の土と表層の土を入れ替える作業です。
このときに、無機物である鉱物性土壌改良材のパーライトや、有機物である木質系のバーク堆肥、食品残などを混ぜ合わせて戻します。
これによって、固くしまって水や酸素が通り抜けられる隙間が少ないために、有機微生物やミミズなどの小動物も繁殖しにくい土壌の改良が徐々に進行していきます。
その結果、水はけがよくなり、有機微生物の生育層も広がって、根張りもよい土になります。
水はけが悪い場所を改善するには
土はふかふかしているのに、雨が止んでもなかなか水が引かないのは、耕してる部分の下の土がかたいためです。
スコップで穴を掘ってみて、土がかたく締まっている層があるようなら、スコップで層に亀裂を入れましょう。
水が亀裂を通って地下に流れるようになります。
堆肥を使おう
堆肥とは、腐葉土、牛糞、鶏糞、豚ぷん、バーク堆肥などの有機物を発酵させたもので、市販品も多く売られています。
土を団粒化させ、水もち、水はけをよくするなど、土づくりに欠かせないものです。
土を豊かにするとともに、水はけと通気性を高め、肥料のもちもよくなります。
完熟していない堆肥を入れると、土の中で醗酵して根を傷めてしまうため、堆肥はかならず完熟のものを使いましょう。
土壌改良に役立つ資材
野菜づくりに向くよい土とは、通気性にすぐれ、水はけ、水もちのよいものを指しますが、土をこうした状態に近づけるためには、土壌改良資材を使います。
堆肥や腐葉土のように、おもに微生物の力で土をよくする有機質のものと、パーライトやバーミキュライトなどのように、物理的に土の状態を変える無機質のものがあります。
土壌を改良するためには次のようなものを土に混ぜ込みます。
[堆肥]
稲わらや家畜糞などの有機物を腐熟させたもの。通気性、保肥性、保水性がよい。
[腐葉土]
広葉樹の落ち葉を腐熟・発酵させたもの。通気性と保水性がよい。
[パーライト]
真珠岩という鉱物を高温処理したもの。多孔質で通気性がよい。
[バーミキュライト]
ヒル石を高温処理したもの。多孔質で通気性と保肥性がよい。
[ピートモス]
ミズゴケが腐熟したもの。通気性と保水性がよい。
[緑肥]
ギニアグラスやマリーゴールドなどの植物を栽培したのちに土にすきこんだもの。痩せた土を回復させる効果がある。
[石灰]
酸性土壌を矯正する効果があるが、多用すると土が固くなる。
土壌酸度(pH)を調べる
酸度はpHで表し、pH7.0が中生、それよりも数値が低ければ酸性、高ければアルカリ性となります。
ほとんどの野菜は、pH6.0~6.5の弱酸性の土でよく育ち、畑が酸性に大きく傾いていると、ほとんどの野菜は正常に成長しません。
サツマイモやジャガイモ、スイカなどの酸性土に強い野菜を除き、多くの野菜は弱酸性~中性を好み、酸性に大きく傾いた土壌を嫌います。
酸性に傾いた土壌では、次のような障害が発生することがあります。
- 酸性度が強い土壌では、微生物の活動が低下し、有機物の分解が遅くなります。
- 酸性によって土壌の成分が溶けだし、土壌から失われます。
- 酸がリン酸と結びついて溶けにくくなり、根がリン酸を吸収できなくなります。
- 土の粘土を形成するアルミニウムイオンが溶けだし、作物の根を傷めます。
日本の土は火山灰性なので酸性の土が多く、雨によって土の中の石灰分が流されて失われるため、何もしないとだんだんと酸性になってきます。
そこで、苦土石灰などアルカリ性の土壌改良剤を散布して生育に適した酸度に調整します。
土壌酸度測定液を使って酸度を測定し、必要量の石灰質肥料を投入して、丁寧に耕します。
pHの数値を1上げるには、壌質土の場合は苦土石灰1m2あたり約200g、保肥力の弱い砂質土では約100g、粘土質の土では約30gを目安にします。
酸度の測定は、市販の土壌酸度測定液を利用するのが手軽です。
[酸度を調べる]
畑の四隅から、地表5~15cmくらいの土を採取する
土1対水2の容積比になるように容器に水道水と土を入れて均一にかき混ぜる
土が沈殿するのを待ち、上澄み液を採取し、試薬と反応させてカラーチャートと比較する
[石灰資材]
石灰:石灰石を粉砕したもの
消石灰:石灰を水と反応させたもの
苦土石灰:苦土と石灰をバランスよく含んだもの
有機石灰:自然材料の石灰
定期的に酸度計で測定して把握し、酸性へと傾いているようであれば、苦土石灰を施して調整します。
一度に大量の石灰を施すと、微量要素の欠乏を起こす恐れがあるので、与えすぎないように注意します。
また、苦土石灰をまいたあとにすぐあとに苗を植えると、根を傷めてしまうので、植える2週間前までにまくようにします。
肥料成分の状態を調べる
肥料成分のバランスが良好かどうかは、野菜の状態から知ることができます。
葉の色が薄かったり、葉が小さい場合は、窒素が欠乏しています。
葉の色が白茶けたり、黄色くなるのは、カリが欠乏しています。
野菜の状態から肥料成分が不足していると分かったら、肥料成分を単独で含む単肥で補います。
三要素を含む配合肥料で補うと、ほかの肥料成分が過剰になるため、適していません。
葉や茎が茂って実がつかないときは、窒素が多すぎます。
肥料成分が多すぎると分かったら、次にその場所で野菜を育てるときに控えるようにしましょう。
野菜のできが悪くなったら天地返し
長年栽培を行っていると、土の表面だけに肥料が偏ってしまうことがあります。
また、土の表面に雑草の種子が混入していたり、害虫の卵、幼虫、病原菌が存在していることがあります。
土の表面の土と深部の土を入れ替えることにより、病害虫を寒さにさらし、死滅させることができます。
雑草の種子も、表面にあったのが深く潜ることにより発芽できなくなります。
肥料の偏在も解消されます。
[天地返しのやり方]
栽培予定地を50~80cmの深さまで掘り、深層にある固い土や粘土の層を表面に掘り出します。
次に、隣の畝の土を同様に掘り、最初掘った場所に投入して上下の土を入れ替えます。
堆肥・石灰・追肥 入れすぎてませんか?
野菜を元気に育てるためにと思って入れているものが、逆に土を悪くしていることもあります。
- 堆肥を毎回たくさん入れている
- 毎回石灰を入れている
- 追肥をたくさん施している
入れすぎは、土を悪くする要因にもなります。
土づくりで大切なのは、必要なものを、必要な量で、必要なときに入れることです。
野菜を育てるには石灰や肥料が必要と、毎回、石灰と肥料を施しがちです。
しかし、入れすぎると、土壌酸度はアルカリ性に傾いてしまい、肥料成分は過剰になり、さまざまな問題が起きやすくなります。
めんどうに思うかもしれませんが、土づくりをする前に、土壌診断を行いましょう。
その結果を見て、石灰や肥料を入れることで、土を健康な状態に保つことができ、野菜も健やかに育ちます。
野菜が好む土壌を意識しよう
野菜によって好む土壌は異なります。
野菜の原産地を知れば分かるように、アフリカなどの痩せた土で育つ野菜があれば、多くの肥料を必要とする野菜もあります。
野菜が好む土壌に近づけることができれば、思った以上に簡単に美味しい野菜を作ることができます。