日本書紀にも記述があるほどの古い歴史をもつネギ。
ネギの種類は、おもに土の中で白くなった部分を食べる長ネギと、葉の緑色の部分を食べる葉ネギとに大きく分けられます。
地域的には、長ネギはおもに関東で、葉ネギはおもに関西で食べられてきましたが、最近はどちらも手に入るようになりました。
薬味に欠かせないネギですが、風邪をひいたときにネギ湯をのむなど、その薬効の高さもよく知られています。
地域ごとに多数の在来品種があるので、手に入りにくい品種を家庭菜園で作ってみるのもおすすめです。
ここでは、おもに白い部分(葉鞘部)を食べる長ネギの特徴や育て方などを詳しく解説します。
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長ネギと葉ネギの違い
ネギの種類は大きく分けて、おもに白い部分を食べる長ネギと、葉を食べる葉ネギの2つですが、系統で分けると、加賀系、千住系、九条系の3つになります。
加賀系、千住系は長ネギの系統で、白い部分を食し、おもに関東で食べられていて、寒さに強いという特性があります。
九条系は京都生まれの葉ネギの系統で、葉の部分を食し、おもに関西で食べられています。
しかし近年、関東にも多くの葉ネギが出回るようになり、関西でも長ネギを使うようになりました。
長ネギでも1本種と分げつ種に分かれる
長ネギであっても、分げつしにくい1本種と、分げつしやすい分げつ種に分けられます。
1本種は種から育て、分げつネギは種がつかないので株分けして増やします。
[分げつしにくい品種]
下仁田ネギ、ホワイトスターなど。
[分げつするネギ]
坊主知らず、五月姫、向小金など。
ネギいろいろ
[万能ネギ(葉ネギ)]
九条ネギの九条細の仲間で、正式名称は博多万能ネギです。
葉ネギを若どりしたもので、鮮やかな緑色が美しく、食感はやわらかいのが特徴です。
和洋中のどの料理にも使えることからこの名がつきました。
[九条ネギ]
京都特産の葉ネギです。
葉が長く、肉質がやわらかいのが特徴です。
[アサツキ]
別名を糸ネギや草ラッキョウといって、細くて青い若葉と、白い茎を食べます。
辛味がワケギよりも強く、白ネギよりも弱いのが特徴です。
殺菌効果があることから、おもに薬味として利用します。
[下仁田ネギ]
別名を殿様ネギ、上州ネギといって、群馬県下仁田町の特産品です。
白い部分は20cmほどと長ネギと比べて短く、太くてずんぐりとした形が特徴です。
煮ると独特の甘みが出るので、鍋に最適です。
[リーキ]
原産地は地中海沿岸で、フランス名でポワローと呼ぶことから、ポロネギや西洋ネギとも呼ばれます。
葉はかたくて食べられませんが、白い部分は煮るとやわらかくなり、甘みと香りが楽しめます。
[わけぎ(葉ネギ)]
ネギとタマネギの雑種で、西日本を中心に栽培されています。
葉先までやわらかく、生食で薬味にしたり、茹でて全体を食べることもできます。
よく枝分かれするのでこの名がついたとされます。
[赤ネギ]
山形県や茨城県の特産品で、葉柄が美しい赤紫色をしています。
一皮むくと白色になりますが、肉質はやわらかく、辛みも少ないのが特徴で、生でも美味です。
[芽ネギ]
小ネギとも呼ばれ、ネギの種子を密植させて植え、7~8cmくらいに成長した若い芽を収穫したものです。
黄緑色が美しく、やわらかいのが特徴です。
栽培方法によるさまざまな品種
同じネギでも、栽培方法がちがうだけでさまざまな品種のネギがあります。
ビニールハウスで栽培される軟白ネギは、やわらかくて甘みがあり、ネギそのものを味わう料理に最適です。
芽ネギは、長さ10cmほどのネギの若い芽で、見た目がきれいなので、刺身のツマなどに最適です。
長ネギの育て方
白い部分を食べる長ネギは、とくに関東地方で好まれ、各地に伝統品種が存在します。
春に種をまいて、夏に苗を植え、冬に収穫するのがもっとも作りやすく、定番の作型です。
種まきからでは収穫まで8か月もかかるので、6月頃に苗を購入して植えるのもよいでしょう。
暑さ寒さに強く、あまり手間もかからなくて育てやすい作物です。
生育期間が長いので、肥料を切らさずにうまく育てることがポイントです。
栽培の概要
生育温度 | 20℃前後。 | ||||
---|---|---|---|---|---|
土壌酸度 | 6~7.4。 | ||||
連作障害 | あまりない。できれば1年以上あける。 | ||||
育てやすい品種 | 松本一本ネギ、ホワイトスター、なべちゃん葱、雷帝下仁田など。 | ||||
元肥 | 苦土石灰と元肥を入れる。 | ||||
種まき時期(苗作り) | 春まき冬どり:3月下旬~5月中旬。 | ||||
苗の植えつけ |
苗が長さ20~25cm、太さ5~6mmくらいになったら。 深さ20~30cm、幅15cmの溝を掘り、溝の中心に苗を1本ずつ植える。 黒マルチ:なし。 株間:5~6cm。 |
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栽培中の管理 |
除草:こまめに除草する。 土寄せ:4回程度に分けて行う。 追肥:土寄せの1~3回目のとき。 |
||||
収穫 | 最後の土寄せから3~4週間して緑葉の伸びがとまったら。 | ||||
病害虫 |
主な病気:さび病、黒斑病、軟腐病など。 主な害虫:ネギハモグリバエ、ネギアブラムシ、アザミウマ、ネキリムシなど。 |
栽培のポイント
- 追肥と土寄せをしっかりして、白い部分を長くする。
- 春まき冬どりが作りやすい。
- こまめに除草する。
- 肥料を切らさないように追肥する。
- ネギ坊主は見つけ次第摘み取る。
ポイントを動画で解説
栽培中の長ネギで育て方のポイントを解説してます。
栽培時期
※品種や地域によって栽培時期は異なります。事前に確認してください。
育てやすい品種
松本一本ネギ、ホワイトスター、なべちゃん葱、雷帝下仁田など。
[松本一本ネギ]
長野県松本特産の固定品種です。
耐寒性が強く、生育旺盛で作りやすいです。
肉質は柔軟で甘味あり、風味とやわらかさが特徴です。
[ホワイトスター]
肉質のきめが細かく苦みや辛みも少なく、とてもおいしい秋冬どりの長ネギです。
生育は旺盛で、耐湿性・耐病性が比較的強く、伸びや太りにすぐれます。
[雷帝下仁田]
下仁田ネギから選抜して育成した品種で、下仁田系に比べて、さび病、べと病に強く、高温期でもつくりやすいのが特徴です。
肉質はとてもやわらかく、甘みとコクがあり、とろけるような舌ざわりです。
白部は18~25cmでとくに太く、葉肉は厚みがありやわらかいです。
[なべちゃん葱]
下仁田ネギの食味と、長ネギの耐寒性と耐病性を受け継ぐ一本太ネギです。
長さ20cm以上、太さ2.8~3.5cmでよく太り、光沢があります。
やわらかくて甘みがあり、鍋物や煮物に最適です。
長ネギの肥料
ネギの栽培では、育苗の期間にリン酸(花や実を育てる成分)を効かせると効果的です。
十分な量のリン酸が含まれている市販のネギ専用の培養土を使用するとよいでしょう。
追肥では、土寄せ前にN-P-K:8-8-8の化成肥料を30~50g/㎡をばらまき、肥料切れしないように注意します。
肥料が多すぎると弱弱しく育って病気が発生しやすくなるので、与えすぎないように注意します。
苗を作る
よいネギの苗を作るためには、苗を作る期間にリン酸を効かせると効果的です。
十分な量のリン酸が含まれている市販のネギ専用の培養土を使用するとよいでしょう。
Amazon:タキイ ねぎ培土 ネギ専用 長期肥効型
プランターや底に穴をあけた発泡スチロールなどに培養土を入れ、5cm間隔で軽く溝をつけ、溝の中に1cmほどの間隔で種を条まきし、溝の両側の土をつまんで種にかけ、手のひらで表面を軽く押さえます。
種をまいたら、水をたっぷりやり、新聞紙をぬらしてかぶせます。
発芽したら新聞を取り除き、葉の数3~4枚、太さ5~6mmになるまで育てます。
畑の準備
冷涼で乾燥した気候を好むため、風通しのよい場所を選びます。
ネギは連作障害のでにくい野菜ですが、できれば1年以上栽培していない場所を選びます。
また、酸性の土壌を嫌うので、酸性に傾いた土壌ではかならず石灰を施し、土壌酸度を調整します。
苗を植える2週間前までに、苦土石灰をまいて深く耕し、1週間前になったら、堆肥を施して深く耕しておきます。
化成肥料は生育に合せて与えるので、とくにやせた土壌でなければ元肥には必要ありません。
植え溝づくり
耕した直後ではなく、耕してから1週間ほどしてから溝をつくると、土が固まって崩れにくくなります。
クワで溝を掘って植え溝をつくります。
深さ20~30cm、幅15cmの溝をクワで掘り、掘り出した土は溝の片側に盛り上げておきます。
苗を植える
種まきから2か月ほどして、苗が長さ20~25cm、太さ5~6mmくらい(鉛筆より少し細い)に成長したら、畑に苗を植えつけます。
日当たりのよい側の壁に、1本ずつ植える場合は株間5cm程度、2本ずつ植える場合は株間10cm程度で、根の高さをそろえて立てかけ、根が隠れるように土をかぶせます。
深く植えすぎると成長しないので注意しましょう。
苗を植えるとき、大苗と小苗を混ぜずに分けて植えると管理や収穫がしやすくなります。
除草(雑草対策)
生育初期は除草が大切です。
長ネギは生育がゆっくりなので、雑草が生えると日陰になって徒長したり、雑草に負けて枯れてしまうこともあります。
とくに生育初期は草に覆われないように、こまめに除草しましょう。
追肥・土寄せ
土寄せは、白い部分を長くするための大切な作業です。
土寄せは栽培期間の長さによって変わりますが、基本的には4回程度に分けて行います。
1回目は、植えつけ後30日したら、N-P-K:8-8-8の化成肥料を30~50g/㎡をばらまき、溝を崩して土をかけます。
2回目は、1回目の土寄せから30~40日したら、同様に追肥し、また溝を崩して根の上に5~6cm土をかけます。
3回目は、2回目の土寄せから30~40日したら、同様に追肥し、株元に5~6cm土をかけて盛り上げます。
4回目は、収穫の30日くらい前に、追肥はせず、分岐部(生長点)まで茎が隠れるように多めに土をかぶせて仕上げます。
何度も土寄せをしたり、一度にたくさん土をかけると肥大が悪くなるので、適期に少しずつ行いましょう。
収穫
最後の土寄せから3~4週間して緑葉の伸びがとまったら、畝の端から必要な分だけ掘り出して収穫します。
株を傷めないように注意しながら、スコップなどでまわりの土をどかし、手でしっかりと株の根元を持ってゆっくり抜き取ります。
冬の間じゅう置いておけるので、必要な分を抜き取ったらまた土を戻しておきます。
病害虫
苗の植えつけ後はネキリムシに注意します。
ネキリムシは、地ぎわ部分を齧って倒してしまうイモムシで、周辺を掘ると出てきます。
葉にはネギハモグリバエ、ネギアブラムシ、アザミウマがよくつきます。
これらの害虫はウイルスを媒介するので、見つけしだい駆除します。
病気では、さび病に注意します。
葉の表面に赤褐色の鉄サビのような小さな斑点ができる病気です。
ほかに、葉に斑点ができるべと病、黒斑病などが発生することがあります。
連作を避け、ひどいようなら抜いて畑の外で処分するか、早めに薬剤を散布しましょう。
ネギは影を嫌う?
「ネギは自分の影も嫌う」という言い伝えがあります。
これは、ネギは日光が大好きで、野菜はどれも日当たりをお好みますが、ネギはとくに日当たりを好むからです。
ネギをたくさん育ててみると分かりますが、日当たりのよい場所ほど背が高くなり、日当たりの悪い場所ほど背が低くなります。
ネギを育てるときは、まず日当たりのよい場所を選び、ネギが影になってしまわないように大型の野菜を南側で育てるのは避け、生育初期から除草をこまめに行いましょう。
ネギは人の影も嫌うともいいますので、少しでも日当たりをよくしてあげるのが、ネギをじょうずに育てるためのポイントです。
コンパニオンプランツ
ネギの根には拮抗菌が共生していて、野菜を病気から守る働きがあります。
ネギの苗が余ったときは、コンパニオンプランツとして活用するとよいでしょう。
[ネギ+イチゴ]
ネギをイチゴの近くに植えると、センチュウ類の繁殖を抑え、イチゴの生育がよくなります。
[ネギ+ウリ科の野菜(カボチャ、キュウリ、スイカなど)]
ネギをウリ科の野菜に添えて植えると、ウリ科の野菜のつる割れ病の予防になります。
[ネギ+ナス科(トマト、ナスなど)]
ネギをナスに添えて植えると、青枯病の予防になります。
反対に、ネギといっしょに植えると育ちが悪くなる野菜があり、豆類、大根、レタスの近くには植えないようにしましょう。
植えた苗が倒れた!
苗が地ぎわから倒れてしまうのは、ネキリムシによる食害です。
ネキリムシはカブラヤガやタマナヤガの幼虫で、体色は暗褐色、体長は4cm、昼間は土中に潜って隠れています。
被害を受けた株のまわりの土の中に潜っているので、探し出して捕殺しましょう。
ネギの苗の販売
ネギの苗を手軽に購入するには、ネット通販の楽天がおすすめです。
時期によっては苗が販売されてなかったり、販売されていても、長ネギや葉ネギ、長ネギでも1本種と分げつ種、品種もさまざまですので、よく確認してから購入してください。
土寄せのコツ!
分けつ部が伸びたら、白い部分を伸ばすために土寄せをします。
分けつ部は生長点でもあるので、ここが埋まらないように注意します。
ネギが細い(太くならない)
ネギが細くなってしまうおもな原因は4つです。
[肥料切れ]
ネギは栽培期間が長く、速効性の肥料を用いる場合は追肥をしっかり行わないと、肥料切れを起こし、太らずに細くなってしまいます。
土寄せの前に追肥をしっかり施しましょう。
[土を寄せすぎ]
土寄せの回数は基本的に4回で、土を少しずつ寄せて、白い部分を少しずつ長くしていきます。
土寄せが早すぎたり、一度に土をたくさん寄せたり、何度も土寄せを行ってしまうと、白い部分は長くなりますが、細くなってしまいます。
[密に植えすぎ]
ネギの苗の植えつけは、株間5cm程度に1~2本ずつが基本です。
株間が狭かったり、一か所に何本も苗を植えてしまうと、太れずに細くなってしまいます。
どうしても細くなってしまう場合は、一か所1本にし、株間を少し広めにとってみましょう。
[徒長]
植えつけたネギが雑草に埋もれてしまうと、徒長してしまい、ヒョロヒョロと細長くなってしまいます。
とくに生育初期は雑草をこまめに取り除き、徒長させないように注意しましょう。
雑草はこまめに取り除き、土寄せの前に追肥をしっかり施し、少しずつ土を寄せることが、白い部分を長く太く育てるポイントです。
ネギ坊主(トウ立ち)
ネギ坊主が出たら、成長の妨げになるので取り除きます。
トウ立ちしたてで花茎が見え隠れするくらいのうちなら、少しかたいですが、食べれます。
ネギ坊主も天ぷらなどに利用できます。
花茎が伸びるほどにかたくなり、花が咲くころにはかたくて食べられなくなります。
しかし、諦めることはなく、花茎は早めに摘みとると、花茎は株から離れて枯れ、またやわらかくなって食べられるようになります。
曲がりネギの作り方
栽培中のネギを一度抜き取って、約30度の角度をつけて再度土に埋めます。
横倒しになったネギの地上部分が上に向かって起き上がるため、大きく曲がり、曲がりネギの形になります。
曲がって伸びた部分にだけ土寄せをするため、植えつけてからの作業が楽になります。
種とり(自家採種)
固定種であれば種とりは簡単にできます。
春にネギの花が咲いたらしばらくそのままにします。
花の中に黒い種が見えてきたら先端を切り取り、日陰に置いて種がこぼれるまで乾燥させます。
じゅうぶんに乾燥したら、手でもんで種を外し、ビンなどに入れて冷暗所で保存します。
分げつネギで周年栽培
分げつネギは、種がつかず、旺盛に分げつして増えていきます。
白い部分は長ネギほどは長く太くなりませんが、1本から20~30本にもなります。
なお、分げつネギはワケギと異なり、ワケギは夏に地上部が枯れて休眠しますが、分げつネギは休眠せず、一年じゅう生育します。
苗の植えつけは冬を除いていつでもできます。
種は売られていないので、株分けされた苗を購入します。
大株になるので、株間を20cmくらいに広げて植えます。
栽培方法は長ネギと同じです。
ネギの栽培に関する書籍
Amazon:ネギの安定多収栽培
もっと長ネギの育て方について詳しく知りたい方には、「ネギの安定多収栽培」をおすすめします。
秋冬、夏秋、春、初夏どりから、葉ネギ、短葉ネギまで、ネギの栽培について余すことなく解説されてます。